パンドラ


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■プロメテウスの画策

ゼウスが父のクロノスから王権を奪った後、オリンポス山に布陣したゼウスたちと、オトリュス山に布陣したティタンたちの間に激しい戦い(ティタノマキア)が起こります。ティタン神族の子であるプロメテウスは、同胞であるオトリュス側が勝てないことを見越して、オリュンポス側に付きます。

ゼウスたちが勝利した後、プロメテウスは自由を与えられますが、密かに同胞の仇討ちを画策します。そこで、神々の姿に似せて創造された人類に、ヘパイストスの作業場の炉から盗み出した火を与えます。また、数、建築、気象、文字などの知恵も伝えます。一説によると、人類を創造したのもプロメテウスだったとされます。

図は、ルーブル美術館所蔵の大理石レリーフ「プロメテウスによる人類の創造」です。


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■ゼウスの報復

プロメテウスが天界から火を盗んで人類に与えた後、ゼウスは人類が神々より強くなるのを恐れます。ゼウスは人類に災いをもたらすために「女性」というものを作るようヘパイストスに命令します。

ゼウスの命令に従って、ヘパイストスは泥から彼女の形をつくり、神々は競って彼女に贈り物を与えます。アテナは機織や女のすべき仕事の能力を、アプロディテは男を苦悩させる魅力を、ヘルメスは犬のように恥知らずで狡猾な心を贈ります。そのため、彼女は「パンドラ」(あまねく贈られた者)と呼ばれます。

図は、ジョン・ディクソン・バトン作「パンドラ」です。


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■災厄の詰まった大甕

ヘシオドス『仕事と日々』(紀元前八世紀ないし七世紀頃成立)によれば、パンドラに持たせるため、大甕が用意されます。大甕には、辛い仕事や死をもたらす病気など、人間にとって「女性」よりもさらに恐ろしい無数の災厄が詰まっていました。

ギリシャ語の原典には「ピトス」という言葉が使われています。ピトスは、貯蔵用の大甕です。おもに葡萄酒、油、穀物、種子など食糧の貯蔵に使用されました。図は、クレタ島にあるクノッソス遺跡のピトス群です。

十六世紀になって、ロッテルダムのエラスムスが、ヘシオドスのパンドラの物語をラテン語に翻訳しました。エラスムスは「ピトス」を、箱を意味するギリシャ語「ピクシス」と解釈しました。それ以来、「パンドラの箱」という言葉が流布することになります。


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■パンドラの派遣

大甕を携えたパンドラが、プロメテウスの弟のエピメテウスの元へ送り込まれます。エピメテウスは愚鈍であったとされ、ゼウスの報復の手段として利用されます。

図は、ジュール・ジョゼフ・ルフェーブル作「パンドラ」です。この絵では、パンドラは小箱を持っています。


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■エピメテウスとパンドラの結婚

美しいパンドラを見たエピメテウスは、ゼウスの報復を恐れたプロメテウスの「ゼウスからの贈り物は受け取るな」という忠告にもかかわらず、彼女と結婚します。

図は、アゴスティーノ・カラッチ作「パンドラ」です。エピメテウスの寝台を、サテュロスもしくはパーンと、灯火を持った少年が覗いています。


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■まき散らされた災厄

ゼウスの特命を帯びたパンドラは、ただちに大甕の蓋を開き、中身をまき散らします。その結果、地上と海は災厄で満たされます。しかし、希望(エルピス)だけは、飛び去る前にパンドラが蓋を閉じてしまったので、大甕の中に残されます。ヘシオドスは「それは、ゼウスのご意向だった」とします。

文脈からすると、「エルピス」は災厄のひとつであり、人類はそれを免れたと解釈するべきでしょうか。古典ギリシャ語の「エルピス」は、良いことを予期(希望)する意味にも、悪いことを予期(絶望)する意味にも使用されます。しかし、古典ギリシャ語文献の統計的分析によれば、良い方の用例が悪い方の用例の五倍を占めるということです。

図は、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作「パンドラ」です。この絵では、箱の蓋を開くことを禁じられたパンドラが、好奇心に負けて開こうとしています。


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■物語の源流

バブリウス『寓話』(二世紀成立)は、少し異なる物語を記しています。神々は、災厄ではなく、祝福の詰まった大甕を人類に送ります。パンドラではなく、愚かな男が大甕を開いてしまいます。祝福のほとんどは失われますが、希望(エルピス)だけが残り、逃げ去った善きものの再来を人々に期待させます。

この物語は、ヘシオドス以前の古い伝承に従っていると考えられています。ヘシオドスがこの伝承をやや未消化のままパンドラの物語に取り入れたとすれば、その結末を「災厄に満ちた世界に住む人類に希望が残された」と素直に解釈するのが妥当かもしれません。

パンドラの物語では、神々の祝福が、人類最初の女性であるパンドラに贈られることも注目されます。図は、バルセロナのカタロニア考古学博物館所蔵の赤像式水瓶(ヒドリア)に描かれた「パンドラの神話」です。


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■デウカリオンの洪水

エピメテウスとパンドラの間には、息女ピュラが生まれます。ピュラは、プロメテウスの息子デウカリオンと結婚します。

その後、ゼウスは不道徳な人々を見て人間に嫌気がさし、絶滅させてしまおうと、地上に大洪水を起こします。デウカリオンは父のプロメテウスから警告を受けていたので、方舟を作って妻のピュラとともに乗り込み、難を逃れます。

洪水が終わると、デウカリオンとピュラはゼウスに生贄を捧げ、人間を新しく蘇らせるよう願います。すると「おまえたちの顔を布で包み、母親の骨を後ろに投げるがよい」とお告げがあります。ピュラはこの言葉に対し、そんな親不孝なことはできないと嘆きます。

しかし、デウカリオンは「母親」とは大地母神のことで「骨」とは河岸の石のことだと解釈し、二人は石を拾って背後に投げます。デウカリオンが投げた石から人間の男が誕生し、ピュラが投げた石からは人間の女が誕生します。こうして再び地上には人間があふれるようになります。

図は、ヴェルギリウス・ソリス作「デウカリオンとピュラ」です。


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