ヒンドゥー教の三大神


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■ヒンドゥー教の変遷と三神一体論

ヒンドゥー教は、バラモン教から聖典やカースト制度を引き継ぎ、土着の神々や崇拝様式を吸収しながら徐々に形成されてきた多神教です。

紀元前二千年頃にアーリア人がイランからインド北西部に侵入します。彼らは紀元前千五百年頃にヴェーダ聖典を成立させ、これに基づくバラモン教を信仰します。

紀元前五世紀ごろに政治的な変化や仏教の隆盛があり、バラモン教は変貌を迫られます。その結果、バラモン教は民間の宗教を受け入れ、同化してヒンドゥー教へと変化して行きます。

ヒンドゥー教は紀元前五~四世紀に顕在化し始め、紀元後四~五世紀に当時優勢であった仏教を凌ぐようになり、その後インドの民族宗教として民衆に広く信仰されます。

近世以降、ヒンドゥー教では「三神一体論(トリムルティ)」とよばれる教義が唱えられます。この教義では、本来は一体である最高神が、三つの役割「創造、維持、破壊」に応じて、三大神「ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ」として現れます。

しかし現在では、ブラフマー神を信仰する人は減り、ヴィシュヌ神とシヴァ神が二大神として並び称され、それぞれが多くの信者を集めています。

図は、エローラ石窟(インド、マハーラーシュトラ州)の「トリムルティ像」です。左から、ブラフマー神、ヴィシュヌ神、シヴァ神です。


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■創造神ブラフマー(一)

ブラフマーは、紀元前十五~十世紀に、宇宙の根本原理であるブラフマンを神格化した神として現われます。バラモン教では神々の上に立つ最高神とされ、「自らを創造したもの(スヴァヤンブー)」「生類の王(プラジャーパティ)」と呼ばれます。

宇宙に何もない時代、ブラフマーは姿を現す前に水を創り、水の中に種子として「黄金の卵(ヒラニヤガルバ)」を置きます。卵の中に一年間留まって成長したブラフマーは、卵を半分に割り、両半分から天地を初めとするあらゆる物を創造します。

ヒンドゥー教の時代(紀元後五~十世紀以降)になると、ヴィシュヌやシヴァが一般大衆の支持を得て力を持って来るのに対し、観念的で独自の神話を持たないブラフマーは人気が得られませんでした。

三神一体論(トリムルティ)では、ブラフマーは最高神の三つの神格の一つに相対化され、世界の創造と、次の破壊の後の再創造とを司ります。

さらに、ヴィシュヌ派やシヴァ派の創生神話では、ブラフマーはこれら二神いずれかに従属して世界を作ったに過ぎないとされます。

図は、カンボジアのプノン・ボック出土の砂岩製「ブラフマー頭部像」(パリ、ギメ東洋美術館所蔵)です。


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■創造神ブラフマー(二)

ブラフマーは、インド北部のアブー山に住んでいます。

四つのヴェーダを象徴する四つの顔と四本の腕を持ち、水鳥ハンサに乗った赤い肌の男性の姿で表されます。手にはそれぞれ、数珠、聖典ヴェーダ、小壷、笏を持ちます。

ブラフマーの妻は、サラスヴァティー(弁才天)です。

図は、ガンガイコンダ・チョッラプラム(インド、タミル・ナードゥ州)のブリハディーシュワラ寺院の「ブラフマー像」です。


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■維持神ヴィシュヌ(一)

ヴィシュヌは、バラモン教の聖典『リグ・ヴェーダ』にも名前の見える、起源の古い神格です。世界を三歩で踏破する自由闊歩の神とされ、世界の果てまで届く太陽光線の神格化であったと考えられています。

ヒンドゥー教の時代になると、動物や英雄たちをヴィシュヌの化身「アヴァターラ」として取り込んで行くことで、民衆の支持を集めます。

三神一体論(トリムルティ)では、ヴィシュヌは最高神の三つの神格の一つにまで高められ、世界の維持・繁栄を司ります。

ヴィシュヌ派の創世神話によると、宇宙ができる前にヴィシュヌは大蛇シェーシャ(竜王アナンタ)の上に横になっています。ヴィシュヌのへそから蓮の花が伸びて行き、そこに創造神ブラフマーが生まれ、さらに、ブラフマーの額から破壊神シヴァが生まれます。

図は、カンボジアのプノン・ボック出土の砂岩製「ヴィシュヌ頭部像」(パリ、ギメ東洋美術館所蔵)です。


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■維持神ヴィシュヌ(二)

ヴィシュヌは、メール山の中心にあるヴァイクンタに住んでいます。

四本の腕を持ち、右には円盤と棍棒を、左には法螺貝と蓮華を持ちます。乗り物はガルダと呼ばれる鳥の王で、鷲のような姿、もしくは鷲と人を合わせた様な姿をしています。

ヴィシュヌの妻は、ラクシュミー(吉祥天)です。

●ヴィシュヌの化身

ヴィシュヌは、「アヴァターラ」と呼ばれる十の姿に変身して地上に現れます。これは、偉大な仕事をした動物や人物たちを「ヴィシュヌの生まれ変わり」として信仰に取り込む為の手段であったと考えられます。

ヴィシュヌの化身で特に有名なのは、ラーマとクリシュナです。ラーマは、叙事詩『ラーマーヤナ』の英雄で、魔王ラーヴァナから人類を救います。クリシュナは、叙事詩『マハーバーラタ』の英雄で、特にその挿話『バガヴァッド・ギーター』で活躍します。

図は、エローラ(インド、マハーラーシュトラ州)のダシャ・アヴァターラ窟の「大蛇シェーシャの上に横になるヴィシュヌ」の像です。


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■破壊神シヴァ(一)

シヴァは、バラモン教の聖典『リグ・ヴェーダ』では、暴風雨神ルドラの別名として現われます。

暴風雨には、風水害をもたらすという破壊的な側面と、土地に水をもたらして植物を育てるという生産的な側面があります。このような災禍と恩恵を共にもたらす性格は、後のシヴァにも受け継がれます。

ヒンドゥー教の時代になると、民間信仰によってシヴァに様々な性格と異名が付与され、民衆の支持を集めます。

三神一体論(トリムルティ)では、シヴァは最高神の三つの神格の一つにまで高められます。世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目をします。

図は、カンボジアのプノン・ボック出土の砂岩製「シヴァ頭部像」(パリ、ギメ東洋美術館所蔵)です。


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■破壊神シヴァ(二)

シヴァは、ヒマラヤのカイラーサ山に住んで、瞑想に励んでいます。

両目の間には第三の目が開いており、彼が怒る時には激しい炎が出て、全てを焼き尽くします。肌は青黒い色で、三日月の髪飾りをした髪の毛は長く頭の上に巻いてあり、短い腰巻を纏った苦行者の姿をしています。乗物はナンディンと呼ばれる牛です。

シヴァの妻は、パールヴァティー(雪冰天女)です。夫婦の間にガネーシャ(歓喜天)が生まれます。

●シヴァの異名

シヴァは、教学上は破壊神ですが、民間信仰によって様々な性格を付与され、それに応じて様々な異名を持ちます。

マハーカーラ(大いなる暗黒)と呼ばれるシヴァは、世界を破壊するときに、恐ろしい黒い姿で現れます。

ナタラージャ(踊りの王)と呼ばれるシヴァは、炎の中で片足をあげて踊っています。

ニーラカンタ(青い喉)と呼ばれるシヴァは、大蛇ヴァースキが猛毒を吐き出して世界が滅びかかったとき、毒を飲み干し、その際に喉が青くなります。

三都破壊者と呼ばれるシヴァは、三つの悪魔の都市(金でできた都市、銀でできた都市、鉄でできた都市)を焼き尽くします。

その他、バイラヴァ(恐怖すべき者)、ガンガーダラ(ガンジスを支える神)、シャルベーシャ(有翼の獅子)、パシュパティ(獣の王)、マハーデーヴァ(偉大なる神)、シャンカラ、などと呼ばれ、異名の数は一千を超えるとされます。

図は、リシケシ(インド、ウッタラーカンド州)の「ガンジス川で瞑想するシヴァ」の像です。


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