欧州の歌(歓喜の歌)


■「欧州の歌」の由来

1955年、汎欧州運動の主宰者リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーは、欧州を象徴する楽曲として、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章の「歓喜の歌」を「欧州の歌」とすることを提言しました。

1971年、欧州評議会の議員会議はカレルギーの提言を取り上げ、「歓喜の歌」の主題を「欧州の歌」として採択するよう提案することを決定しました。

これを受けて閣僚委員会は1972年1月19日、ストラスブールにおいて「歓喜の歌」の主題を「欧州の歌」とすることを公式に発表しました。

指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンは欧州評議会の依頼を受けて「歓喜の歌」を「欧州の歌」としてピアノ独奏、吹奏楽、交響楽にそれぞれ編曲し、公式録音の演奏を指揮しました。

カラヤンは楽譜にこの曲に対する自らの思いを込め、とくにテンポについては、ベートーヴェンが二分音符 = 80 としたのに対し、カラヤンは四分音符 = 120 としました。

1985年、欧州共同体(現在の欧州連合)の加盟国首脳は「欧州の歌」を共同体の歌とする決議を採択しました。

この採択は、加盟国の国歌と置き換えるものではなく、域内の多様性における統一を共有する価値観を称えることを目的としています。「欧州の歌」は、自由・平和・結束という、統合された欧州の理想を表すものです。

◇LINK (new):https://www.youtube.com/watch?v=_ecrJaA_mXg

▲上の画像は、欧州評議会によって採用され、欧州連合の旗として使用されている欧州旗です。長方形の青地に12個の金色の星が円環状に配置されています。青地は青空を表し、星の描く円環はヨーロッパの人々の連帯を表します。12個という星の数は「完璧」と「充実」を表し、加盟国の数を表すものではありません。


■「欧州の歌」の歌詞について

欧州連合では多くの言語が使われているため、「欧州の歌」は楽器だけで演奏されており、ベートーヴェンがメロディをつけたシラーのドイツ語の詩は「欧州の歌」の正式な歌詞とはされていません。

しかし、曲が演奏される際には、曲にあわせてドイツ語の詩が歌われることがあります。また、ドイツ語の詩をさまざまな言語に翻訳して「欧州の歌」の歌詞に使おうとする試みもなされました。

近年では、オーストリアの作曲家ペーター・ローラントが、かつて多くのヨーロッパ諸国で共通語(リングワ・フランカ)として使われたラテン語で書き起こした「欧州の歌」を提案しています。

▲上の画像は、グスタフ・クリムト作「ベートーヴェン・フリーズ」の第三場面「歓喜/接吻」です。フリードリヒ・フォン・シラーによる詩「歓喜の歌」を女性たちが合唱する姿が描かれています。


■「歓喜の歌」の由来

1785年、フリードリヒ・フォン・シラーはドレスデンで、友人であるフリーメイソン会員クリスティアン・ゴットフリート・ケルナーの依頼により、フリーメイソンの儀式に使用する詩「自由讃歌」(An die Freiheit)を書き上げました。

その後、「自由讃歌」は曲をつけて酒宴の歌としてもてはやされるようになり、シラーは詩を書き直して「歓喜の歌」(An die Freude)としました。

「歓喜の歌」は他方で、書かれた当時は「品がないもの」の典型例としてこき下ろされ、シラーの晩年には「俗物的である」としてさげずまれました。

1792年、当時22歳のベートーヴェンはこの詩の初稿に出会い、いたく感動して曲をつけようと思い立ちます。

1803年、シラーは「歓喜の歌」に改稿を加え、その二年後に死去します。

1824年、ベートーヴェンは交響曲第9番を完成させます。「合唱」には、シラーの1803年改稿の詩が用いられました。

▲上の写真(Wikimedia Commonsより)は、ドレスデンの文学博物館「シラー・ハウシェン」にあるクリスティアン・ゴットフリート・ケルナー(左)と、フリードリヒ・フォン・シラー(右)の像です。


■シラー「歓喜の歌」(An die Freude)のドイツ語歌詞

Freude, schöner Götterfunken,
喜びよ、神々の美しいひらめきよ、
Tochter aus Elysium,
エリジウムに生まれた娘よ、
Wir betreten feuertrunken,
私たちは火のように酔って踏み入る、
Himmlische, dein Heiligtum!
天上のおまえの聖所へと。

Deine Zauber binden wieder,
おまえの魔力は再び結びつける、
Was die Mode streng geteilt;
時流が厳格に仕分けたものを。
Alle Menschen werden Brüder,
すべての人々は兄弟となる、
Wo dein sanfter Flügel weilt.
おまえの優しい翼が安らう場所で。

Wem der große Wurf gelungen,
ひとりの友の友になるという
Eines Freundes Freund zu sein,
大きな事業をなしとげた者、
Wer ein holdes Weib errungen,
ひとりの愛らしい妻を得た者よ、
Mische seinen Jubel ein!
彼の歓喜に加わるがよい。

Ja, wer auch nur eine Seele
そうだ、その者もだ、ただひとりだけ心魂の友が
Sein nennt auf dem Erdenrund!
この地球上にいると言う者。
Und wer's nie gekonnt, der stehle
そして、何も実現できなかった者は立ち去るがよい、
Weinend sich aus diesem Bund.
この集まりから泣く泣く。

◇LINK (new):https://www.youtube.com/watch?v=vxlzF4NMtx4

▲上の画像は、セバスチャン・ヴランクス作「エリジウムで父親に出会うアエネアス」です。エリジウム(エリュシオン)は、ギリシア神話およびローマ神話に登場する死後の楽園です。神々に愛された英雄たちの魂が暮らすとされます。アエネアス(アイネイアス)はトロイア戦争におけるトロイア側の武将で、トロイア滅亡後にイタリア半島に逃れて、後のローマ建国の祖となったとされます。


■ローラント「欧州の歌」(Hymnus Europae)のラテン語歌詞

Est Europa nunc unita
欧州は今、ひとつになった
et unita maneat;
そして、ひとつであり続けるだろう
una in diversitate
多様性における統一は
pacem mundi augeat.
世界の平和に貢献するだろう

Semper regant in Europa
欧州で常に支配するのは
fides et iustitia
信頼と正義
et libertas populorum
そして、人民の自由
in maiore patria.
より広大な領域において、これらが支配する

Cives, floreat Europa,
市民たちよ、欧州は花開くだろう
opus magnum vocat vos.
偉大な使命が君たちを呼んでいる
Stellae signa sunt in caelo
天上の黄金の星々は
aureae, quae iungant nos.
私たちを結び付ける象徴だ

◇LINK (new):https://www.youtube.com/watch?v=U_t3Qs9WFx4

▲上の写真(NASA著作物)は、人工衛星から撮影された欧州の夜景です。


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